家族の会・横田夫妻と面会するオバマ大統領(2014年当時)
横田めぐみさん拉致から40年。未だ見えない解決の道筋。
北朝鮮による拉致被害者の家族会が結成されて今年3月25日で20年を経た。横田めぐみさんが拉致されてから今年で40年が経つ。家族会は今年の運動方針として「年内に全ての被害者救出」「見返りも条件に実質協議」を掲げたが、道筋は見えない。
拉致の存在を初めて報じたのは産経新聞だ。1980年1月7日付1面トップに「アベック3組ナゾの蒸発 外国情報機関が関与? 戸籍入手が目的か」とスクープした。78年夏の蓮池薫さんらの拉致事件のことだ。
同紙は今年3月24日付に「産経新聞は続報を打ったが後追いする報道はなかった。『誤報』『嘘記事』、社内外の批判が聞こえた。『間違いだったと思ったことは一度もない』。阿部は言い切るが、スクープは黙殺され、取材継続の機会を失った」と回顧している。阿部とは当時、社会部記者だった阿部雅美氏(後に編集局長)のことだ。
産経スクープの前年79年2月には木内信胤氏ら学者・文化人らが「スパイ防止法制定国民会議」を発足させており、他紙が黙殺してもスパイ防止法制定運動にとっては全国展開する契機となったと言える。
メディアが北朝鮮を「地上の楽園」とまくし立てたのはなぜか。
想起すべきは拉致を黙殺した左派メディアの責任だ。50年代から60年代にかけて北朝鮮を「地上の楽園」と報じ、それを信じて帰国した在日朝鮮人とその日本人妻らが多数いた。黒田勝弘氏(産経ソウル駐在特別記者兼論説委員)は「ぼくも他のメディアと同じく『人道の船』とか『人道航路』とたたえて送り出した。今、考えると痛恨きわまりない。非人道を人道と伝えた、北朝鮮に対するこの錯誤、錯覚はどこからきたのだろうか」と自問している(産経2009年12月19日付)。当時、黒田氏は共同通信の記者だった。
その最大の原因を黒田氏は社会主義幻想と反日・贖罪史観だとしている。その筆頭は朝日新聞である。朝日は71年9月、編集局長らが訪朝し日本のメディアで初めて金日成主席と会見した。これを実現させるために同年2月に在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の要請を受け入れ北朝鮮の表記を「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)」とし、他紙もならった。
ちなみに「北朝鮮」に戻したのは産経が92年、読売が99年だが、朝日は02年12月で、30年間も「共和国」と呼び続けた。
朝日が牽引した親北反韓でスパイが暗躍
朝日新聞に牽引された朝鮮半島報道は「南の韓国は“反共独裁国家”として顧みられず、否定的なイメージばかりが流布された。北朝鮮=朝鮮総連のマスコミ情報工作も強力だった。当時の日本社会の朝鮮半島情勢は、朝鮮総連経由で流される親北・反韓的なものがほとんどだった」(黒田氏)のである。
そういう「言論空間」の中で、73年8月、「戦後日本の外事警察の最大の敗北」(山本鎮彦警察庁警備局長=当時)と呼ばれる山形県温海町の北朝鮮スパイ潜入事件が起こった。スパイ防止法がないので工作員は執行猶予付きの微罪で、押収された無線機などのスパイ用具を「金日成閣下のものだから返せ」と主張、裁判所が認めたので「万景峰号」で新潟港から堂々と帰国、北朝鮮は一層、対日工作を強めた。
韓国政府は74年5月、「(過去20年間に)日本を経由して韓国に浸透し、検挙された北朝鮮のスパイは約220人に達する」として、日本政府に朝鮮総連の破壊活動を阻止するよう求めた(韓国外交文書=05年1月公表)。だが、親北世論に押されて動かなかった。
その結果、74年8月に在日韓国人による朴正煕大統領夫妻銃撃事件(陸英修夫人死亡)が発生。77年11月に横田めぐみさんが拉致され、78年の「アベック蒸発」に至ったのである。
こうして事件を受けてスパイ防止法制定運動が高まり、86年末には地方議会で同法制定を求める請願・意見書が全自治体の過半数を上回る1734議会で採択され、自民党はスパイ防止法案を作成し、85年6月に国会に上程した。
これに対して共産党は85年5月、党中央委員会に「国家機密法対策委員会」を設置。新聞労連は同年7月の第35回定期大会でスパイ防止法案粉砕を決議。朝日新聞は86年11月25日朝刊で紙面の半分を割いて反スパイ防止法特集を組んだ。
今もテロ準備罪に反対し北朝鮮擁護
横田めぐみさんや原敕晃さんを拉致した北工作員、辛光洙容疑者(国際手配中)は81年11月に原さん名義のパスポートで韓国に潜入し85年にスパイ容疑で逮捕され、86年に死刑が確定した。これに対して89年、菅直人氏ら親朝議員が「在日韓国人政治犯の釈放に関する要望」を提出、これを受けて韓国は辛を北朝鮮に送還した。
朝鮮労働党と友党関係にあった社会党(現社民党)は87年11月の大韓航空機爆破事件では北擁護に動き、88年1月27日の社会党朝鮮問題特別委員会で「朝鮮労働党はマルクス主義政党だからテロはしないはずだ」(嶋崎譲氏)などと、北の犯行と認めない決定を下したことも忘れてはならない。
拉致事件の日本国内の協力者は各界各層に多数存在していたこと、そして彼らは今も安保法関連法やテロ等準備罪に反対して間接的に北朝鮮を擁護していることを想起しておくべきだ。
(「世界思想」2017年5月号より全文掲載)