苦境に立たされている朴槿恵大統領ではあるが、野党を中心とした左翼勢力の反対を押し切って決断した結果であった。これで朴大統領は、米国との懸案事項であったTHAAD(最終段階高高度地域防衛)導入の決定とあわせて、東アジアの平和と安定のために歴史的なことを成し遂げたといえる。

 それにしても、ここに至る過程を見ると朝鮮半島の地政学的位置の重要性をあらためて認識させられるものであった。すなわち、日本、米国、中国、そしてロシアの四大国が半島を取り囲み、日米と中露がそれを巡って対立し合っているという状況のことである。
 かつての米ソ冷戦時代にあっては、北朝鮮側にはソ連、中国がついており、韓国の背後には日米があった。しかし1990年代に入って韓国は、北方政策の掛け声のもとロシアとの国交を回復し、さらには中国との経済連携を深めてきた。
 中国の軍事・経済面での強大化の中で、北朝鮮と韓国はともに、中国の影響を強く受けるようになった。

 韓国の歴史を見ると、中国に新しい国が実現すると、絶えずその国から侵略を受け、甚大な被害を被ってきた。漢の時代は、半島に漢の支配による四郡が設置され、隋には2度の侵攻を受け、元は70年近く半島を支配してきた。半島国家の生き残りの道として事大主義を取らざるを得なかったことも、一面頷ける。

 しかし、今までの歴史と比較できない点がある。現代中国は、共産主義という思想に縛られた、世界共産化という明確な戦略目標を有した国家であるということである。中国から見れば北朝鮮は主体思想という変形した共産主義の国であるから、簡単に日米寄りにはならない。問題は韓国である。中国は韓国を日本から離反させ、米国との距離も引き離していく。したがって、現在、韓国を巡って中国対日米がすさまじい綱引きの戦いを演じてきたのである。

 朴大統領がTHAAD導入を決定したということ、慰安婦問題で日韓政府間が合意に至り、ついにはGSOMIAを締結したということは、中国という歴史的事大主義の相手である巨大共産主義国家との関係ではなく、日米を選んだという、まさに歴史的決断を下したということである。中国にとっては、耐えられない、何としてもひっくり返さねばならない危機的状況ということになる。

 韓国はまた、歴史的にも、内部における政争の激しい国である。ここに地域的対立も絡んでいる。日清・日露戦争時には、韓国内に日本派、清派、露派等が激しい政争を繰り広げていたことはよく知られていることだ。

 現在の韓国ではどうか。表では北朝鮮系(親北)の形をとりながら、左翼勢力、野党勢力を扇動し、朴大統領を退陣に追い込んで野党政権を打ち立て、日米との関係を切る―これが中国の戦略であることを喝破しなければならない。

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