古今東西、他人の考え出した理論やアイディア、言説を無断で引用し自分の考えとして発表したりすることは「剽窃(ひょうせつ)」であり、恥ずべきこととされてきた。特にセンシティブなのは、学術界、アカデミズムである。論文一つとっても、いかに独創性があるか、画期的なものか、という評価が論文の価値を大きく左右する。

 また、自分の論文がオリジナルでなければ、その引用元をきちんと明記し、場合によっては「謝辞」という形でお世話になった旨を述べるのがこの世界の「マナー」だとされている。

 例えば、プトレマイオスの「天動説」が中世カトリックで絶対的な権威とされていた時代に、ポーランドの司祭だったコペルニクスが、これと真っ向から対立する「地動説」を唱えた。この時、コペルニクスは地動説は自分の「オリジナル」とは言わず、紀元前3世紀の古代ギリシャのアリスタルコスの地動説(地球の自転と太陽の周りを惑星が公転しているとした説)を知っており、彼に敬意を払っていた。用心深いコペルニクスは死の直前に『天球の回転について』を公刊。コペルニクスを擁護したブルーノは火刑に処され、ガリレオは魔女裁判にかけられた時代であった。

 

 そんな学術界の「常識」や「マナー」などどこ吹く風で、「学者の生命」とも言える学説を、いとも簡単に「自論」のようにテレビという公共の電波を使って垂れ流す「ジャーナリスト」がいると話題になっている。それが池上彰氏だ。

 この騒動の発端は、9月7日にフジテレビ系で放送された『池上彰スペシャル!』で、「(日米首脳会談について)トランプさんが校長先生で、安倍さんが担任の先生みたい」とすらすら政権批判をするなどした「一般の小中学生」が、実は芸能プロダクションに所属する子役だった(総勢20人!)ことが判明し、ヤラセではないかとネット炎上したことにある。

 これを見ていた元通産官僚で評論家の八幡和郎・徳島文理大教授が、自身のツイッターとフェイスブックで「池上彰氏の番組から取材があって時間を取られた後に、『池上の番組の方針で、番組では八幡さんの意見ではなく池上の意見として紹介しますがご了承いただけるでしょうか』と言われた」ので、毅然と断った「事件」を暴露した。

 

 これに反応した会社社長の宮下研一氏が「取材に来て丁寧に説明すると、最後に『池上の方針で池上の意見として』と、全く同じ言い方をした」と返した。

 さらに、元警視庁通訳捜査官の坂東忠信氏も、「テレ朝から池上彰さんのネタ取り」が来て、「名前出さない、出演しない、話した内容を池上が話すので、局に来て事前チェックを」と頼まれたが断ったという。

 ジャーナリストの有本香氏も「同じような経験がある」とし、経済評論家の上念司氏は「池上彰の番組で監修を依頼され、経済の間違いを指摘したら干された」と「Me too 」と叫び始めると、池上氏の「意見パクリ疑惑」を糾弾する声は日増しに高まり、ツイッターでは「# 池上me too 」というハッシュタグが登場、「パクリ被害」の声を上げる人が増加。池上氏自身は「疑惑」を否定している。

 

 だが、池内恵・東大先端科学技術センター准教授は「池上彰氏は他人の知識、情報の転用」と言い、高橋洋一・嘉悦大教授は「せめて番組の最後にクレジットで監修・協力者を明示すべき」と言う。前述の板東氏は「『何でも知ってる池上彰』を売りにするためネタを集めるスタッフ、物知りイメージに拘る池上氏」という事情と指摘する。

 池上氏はNHK時代、「週刊こどもニュース」のお父さん役で、時事問題をわかりやすく解説。情報バラエティの冠番組を続け、ニュースソースとして、自身の左翼的立場のみならず、保守的情報源からも広く収集という印象があったが、今回の「告発」で「そうだったのか」と氷解した。科学理論まで「自論」とはしないが、時事問題などの「意見」に関して「引用」という形を採らない。

 いやしくも東工大など学生に講義するなら、出典を明示するのが最低限の礼儀と心得るべきである。

思想新聞「文化共産主義に警戒を」10月1日号より掲載のニュースは本紙にて)

10月1日号 巻頭特集「安倍氏、自民総裁選に勝利」 / NEWS「創立50周年記念 富山講演会」 / 主張「少女犠牲の座間事件の再発防げ」 etc

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