「世界思想」4月号を刊行しました。今号の特集は「子供・家庭政策をめぐる攻防」です。
ここでは特集記事の一部【左翼勢力が歪める「子どもの権利」】をご紹介します。
「国連子どもの権利委員会」からの勧告
「子ども家庭庁」の創設にあたっては、山田太郎・自見英子両参院議員が立役者となった。両議員が開始した「勉強会」が提言を取りまとめたのだが、その背景には、日本政府が「国連子どもの権利委員会」から、1998~2019年の合計4度にわたって受けてきた「勧告」がある。
具体的な勧告内容のポイントは以下の三つだ。
①子供の権利に関する包括的な法律の採択と国内法の整理
②子供の権利に関わる全ての活動を十分な権限をもって調整する機関の設置
③子供の苦情を「優しいやり方で」受理、調査、対応できる人権監視機構の迅速な設置
これらが、それぞれ①「子ども基本法」の制定②「こども庁」設置③「子どもコミッショナー」の実現―という具体的な政策に落としこまれた。
ここで指摘すべきは、この国連委員会「勧告」の「政治偏向」のひどさである。そこには6分野の第1として「差別の禁止」を掲げ、次のように記している。
「㋐包括的な反差別法を制定すること。㋑非婚の両親から生まれた子どもの地位に関連する規定を含め、理由の如何を問わず子どもを差別しているすべての規定を廃止すること。㋒特に民族的マイノリティ(アイヌ民族を含む)、被差別部落出身者の子ども、日本人以外の出自の子ども(コリアンなど)、移住労働者の子ども、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー及びインターセックスである子ども、婚外子並びに障害のある子どもに対して現実に行われている差別を減少させ且つ防止するための措置(意識啓発プログラム、キャンペーン及び人権教育を含む)を強化すること」
高橋史朗・モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授はこの内容に関して、「日本の一部の国連NGO団体が国連の委員会に働きかけた内容がみごとに盛り込まれた勧告」だと指摘している(モラロジー道徳教育財団公式サイト寄稿論文)。そして山田、自見氏らの「勉強会」では「子どもを差別しているすべての規定を廃止」し「包括的な反差別法」を制定する必要性が強調されたという。
政治的意図をもって国連を利用する左翼勢力
確かに世界には、経済的、時間的事情で学校に通えない子供が溢れており、子供どころか大人ですら今日一日を生きていくのに精一杯の貧しい国も少なくない。さらには子供が理不尽に拉致されて人身売買され、性的に搾取されたり、兵役を担わされたりする国もある。また、そこまでの事例がない日本でも、児童虐待や子供の貧困、家族の介護などで学業を犠牲にするヤングケアラーの存在などが社会問題として指摘されている。
その意味で、国連の「子どもの権利条約」そのものには一定の意義がある。
問題は、この条約や、そのもとにある子どもの権利委員会を「利用」して、自分たちの思想信条で支配しようとする勢力がある、ということだ。
国連の「委員会」に政治的アジェンダを持ち込み、「審査」を働きかけている勢力こそ、左翼系NGO団体や労組である。最初の2度の勧告は、日本教職員組合本部と同一住所に事務局を置く「子どもの人権連」と「反差別国際運動(IMADR)日本委員会」が国連に提出したレポートに基づいて「審査」が行われた。
後者はアイヌや沖縄県民が「先住民族」として差別されていると国連に訴えてきた、北朝鮮系の「チュチェ思想研究会」幹部が組織化した団体だ。代表理事は旧社会党や立憲民主党などと関係の深い「部落解放同盟」委員長。名誉代表理事の武者小路公秀氏は「チュチェ研」の国際機関である「チュチェ思想国際研究所」の理事も務める。
ジャーナリストの篠原常一郎氏は2019年のネット番組で「元々チュチェ思想研究会は日教組をベースにできている。…日教組の親分(委員長)の槙枝元文さんが相当テコ入れした」と日教組とチュチェ研との「深い関係」を指摘した(「文化人放送局」)。
さらに前者「子どもの人権連」についても、代表委員の平野裕二氏は、悪名高い『生徒人権手帳~「生徒手帳」はもういらない~』(1990年、三一書房)の共著者だ。
この『手帳』には中高生の「権利」として「服装・髪型を自分で決める権利」に始まり、「日の丸・君が代を拒否する権利」「セックスをする権利」などがずらりと並んでいる。
この他にも、国連にレポートを提出した団体には、過激な性教育で知られる性教協の関係者など、左翼的な人物が名を連ねている。