「世界思想」7月号を刊行しました。今号の特集は「韓国新政権が開く新たな地平 」です。
ここでは特集記事の一部【改善への強い意志が開く日韓関係】をご紹介します。
戦後最悪の日韓関係
日韓関係は戦後最悪と言われる。契機となったのは2018年の韓国大法院の元徴用工判決と慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した2015年の日韓合意を事実上反故にされたこと、そして日本側の「輸出管理」措置だった。
最大の懸案は、戦時中の徴用工への賠償を日本企業に命じた韓国大法院判決だろう。日本側は国家間の正式合意を否定する国際法違反だとしている。日本企業の韓国内資産は差し押さえられ現金化に向けた手続きが進む。
尹錫悦大統領周辺では、韓国政府が賠償を肩代わりする案が検討されているが、少数与党であることを含め、国内をまとめ切れるかは未知数だ。
文在寅前政権下で両国の外交・防衛上の意思疎通は希薄となった。象徴的な出来事は、昨年11月、韓国の警察庁長官による島根県・竹島上陸だ。日本は抗議の意志として、同時期に開かれていた日米韓の次官級協議後の共同記者会見を断っている。
そして日本が2月1日、世界文化遺産への登録推薦を閣議了解した新潟県の「佐渡島の金山」についても、韓国は戦時中に朝鮮半島出身者が動員されたとして反発している。
関係改善を望む米国
日韓両国の現状に米国は強い懸念を持っている。ロシアのウクライナ侵攻に直面し、中国の軍備増強の課題もある。日韓対立がこれ以上続けば、北朝鮮が間隙をついて挑発をエスカレートしかねない。米国の対応が追い付かなくなるのは目に見えているのだ。
5月21日の米韓首脳会談で、米韓同盟は「朝鮮半島とインド太平洋地域の平和、安保、繁栄の核心軸」と再定義された。尹氏は、目標として自由、平和、繁栄に寄与する「グローバル中枢国家」としての韓国の旗を掲げている。米国が主導する新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」参加を表明し、「安米経中」といわれる従来路線の転換意志を明確にした。
米国は韓国側に、日韓関係改善に向けて釘を刺したという。尹次期政権(当時)は日本に先立ち、4月上旬に米国に「政策協議代表団」を派遣した。その時、5月下旬に東京で開かれる日米豪印(クアッド)首脳会合にあわせてアジア歴訪を予定するバイデン大統領に、日本より先に韓国に来てほしいと要請している。これに対して米国側が出した条件は、「対日関係の改善に最善を尽くしてほしい」とのことだったという。
尹錫悦政権の日韓関係改善の意志は明確である。大統領選では日韓や日米韓3カ国の協力の重要性を訴えた。韓国の安全保障上の最重要課題は北朝鮮だが、東アジアには北大西洋条約機構(NATO)のような安全保障の枠組みがない。要となるのは日韓米3か国体制なのである。