「ウクライナ」が揺れ動いている。トランプ米大統領が戦争終結を目指す停戦交渉を巡ってウクライナのゼレンスキー大統領を批判し、交渉の行方に暗雲が垂れ込めている。言うまでもなく侵略者はロシアである。プーチン露大統領の責任を何ひとつ問わず、ウクライナ破壊の野望を容認するようなことがあれば、たとえ一時的に〝和平〟がなったとしても、それは偽りの平和にすぎない。

 我々は真の平和を希求する。悪が勝利する世界であっては断じてならないと考える。21世紀を「破滅の世紀」にさせないために何をなすべきか。「戦後」というぬるま湯に漬かってきた日本人は何を悟るべきか。露のウクライナ侵略戦争の教訓を今一度、想起しなければならない。

プーチンが企てる恐るべき民族浄化

 プーチン露大統領によるウクライナ侵略戦争は、一言するなら地上からウクライナという国を抹殺、すなわち国家消滅を目論むものである。それは単に国を滅ぼすだけでなく、ウクライナ人自体を葬ろうとする野心である。ウクライナ人にとってそれは祖先が築いた麗しき祖国を戦車のキャタピラで、ミサイルで、あるいはドローン爆撃で破壊され、夥しい数の国民が殺され、蹂躙される。民族浄化の危機である。その悲痛な声に耳を閉ざしてはならない。

 2022年にノーベル平和賞を受賞したウクライナの人権団体「市民自由センター」代表、オレクサンドラ・マトビチュク氏は「(露の)占領は戦争の一形態であり、強制移送、拷問、性的暴力、アイデンティティの否定、強制的な養子縁組といった暴力が続いている」と訴えている(朝日新聞24年2月24日付)。

 人間の尊厳に関わる、おぞましい犯罪が繰り広げられていることを看過してはならない。米学者の指摘に耳を傾けてみよう。「兵士らは性的な傷を(ウクライナ市民に)残すことで彼ら(ロシア)の力を誇示しようとしている。レイプの傷が刻まれた女性をあえて生かすことで、人々に癒えることのない傷と恐怖を刻み込む。それこそがウクライナ社会そのものへの凌辱なのだ」「レイプは女性を守れなかった男性たちに『個人の恥』『民族の恥』を感じさせ、彼らの自意識(アイデンティティー)も破壊する。そしてその刃は、地域社会も引き裂く」(毎日新聞・大治朋子専門記者=22年5月10日付「レイプという『兵器』」)。これが戦争の現実なのだ。

 このような蛮行を神は許さるわけがない。国際政治学者、グレンゴ・アンドリー氏は言う。「この戦争はウクライナにとって、国と民族の存亡をかけた戦いでもある。ロシアが戦争に勝った場合、独立したウクライナの存在を認めないだろう。そして高い確率で、ウクライナ民族そのものを亡くす政策をとると予想される。もしウクライナが敗北し、滅亡すれば、世の中の独裁侵略国家は『他国を征服しても、国際社会は反応しない。征服は普通にできることだ』と確信し、侵略や征服が繰り返されるようになる」(産経新聞2024年2月25日付)。悪魔の誘惑である。

 思い起こしてみよう。東西冷戦時代に「戦渦を招かい方法がある」とロンドン大学教授の森嶋通夫氏が珍論を展開したことを。「日本がもしソ連に侵略されれば、戦うことはせずに、白旗と赤旗を掲げて降伏すればよい」と。降伏すれば、戦争の被害が少なくてすむという妄想である。これを「奴隷の平和」という。だが、戦火はなくとも上記のごとき恐るべき人権蹂躙を許し、民族は消滅させられるのだ。だから敗北は許されないのである。

 露のウクライナ侵略戦争は、「平和憲法」と称される現行憲法の幻想を見せつけた。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」(前文)、「平和主義」(9条)を唱えても、野蛮な国家指導者の心次第で「平和」はいとも簡単に打ち破られるということを国民は実感させられた。単なる「紙の約束」では平和を守れない現実も見せつけられた。

 すなわちウクライナはソ連崩壊後、世界3位の核兵器保有国だったが、1994年に核拡散を防ぐため関係国と結んだ「ブダペスト覚書」(核保有国の米露英が調印)で、領土の保全と主権尊重を条件に核兵器を放棄した。だが覚書は紙切れに過ぎなかった。そこから次の教訓が導き出された。

 「戦力がないと守れない」(普段から戦闘力、特に攻撃力を強化しなければ、自国は守れない)「同盟がないと守れない」(NATO加盟国なら侵攻を防げた)「戦わないと助けは来ない」(侵略を受けても自ら血を流して戦わない国民を同盟国は本気で守らない)=外交評論家・宮家邦彦氏(産経新聞22年4月7日付)

 


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