またぞろ中国スパイである。警視庁公安部はわが国最大の研究機関である国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(茨城県つくば市)でフッ素化合物の合成技術を密かに中国企業に流していた中国人を不正競争防止法違反(営業秘密の開示)容疑で逮捕した。
報道によれば、この中国人は2002年から産総研の主任研究員として勤務する傍ら、中国軍の兵器開発に携わる「国防7校」の一つである北京理工大の教員を兼任し、日本の先端技術を中国軍に流すエージェントの役割を果たしていた。こうした技術流出は後を絶たず、全国の警察が昨年摘発した営業秘密侵害事件は29件で、統計を取り始めた2013年以降で最多となったという 。
スパイを野放しのお粗末な国家体制
もっとも、最多といっても摘発されただけのものだ。氷山の一角にすぎない。2021年には日本に滞在していた中国共産党員の男が中国人民解放軍の指示を受け、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や防衛関連の企業など日本の200にのぼる研究機関や会社に大規模なサイバー攻撃を行っていた事件も発生している。男は中国人民解放軍のサイバー攻撃専門部隊「61417部隊」の指示で動いていた「Tick」と呼ばれる中国のハッカー集団に情報を流していた。
中国は破廉恥な「スパイ国家」であることを想起せねばならない。1999年に「西側軍事科学技術の収集利用に関する計画」を作成し、情報収集機関を4000団体設立し、あらゆる階層の華僑、華人に情報収集を命じた。2015年に制定した「国家安全保障法」は、国民に対して国家安全当局者に協力し命令・指示に従い、中国企業に対して政府の要請に応じて情報を提供しアクセスすることを義務付けた。
そればかりか2017年に制定した「国家情報法」は、国民に対して国家のインテリジェンス活動(諜報活動)を支援する義務があるとし、諜報活動を行う機関は関係機関や組織(企業など)、国民に対して必要なサポートや支援、協力を要求することが許されると規定した。トランプ前米大統領が言うように「中国人を見たらスパイと思え」なのだ。
しかも、わが国は「スパイ天国」と称されるほどの平和ボケの国だ。2007年には防衛庁元技官が潜水艦情報を漏洩させた。トヨタ系の自動車部品メーカー「デンソー」では中国人技師(人民解放軍の軍事スパイ)が産業用ロボットやディーゼル噴射装置など最高機密を盗みだした。2012年には駐日中国大使館の一等書記官が虚偽身分で外国人登録証を取得し、政官界で工作活動をしていた。
だいたい外務省自身が親中派の「チャイナ・スクール」(中国語研修組)の巣窟だ。政界では自民党が親中・公明党と連立を組み、おまけに親中政治家の大親分である林芳正・日中友好議員連盟前会長が外務大臣ときている(林氏は外相就任に際し、「無用な誤解を避けるため」に日中議連の会長職を辞任したとしたが、「無用な誤解」とは何なのか、無言を通した)。
今回の事件も不正競争防止法違反(営業秘密の開示)というから笑うほかない。スパイ罪がないので、こんな罪名でしか摘発できない。前記の各事件は窃盗、外国人登録法違反等々、微罪でしかない。世界で稀有なスパイ防止法が存在しない国であるからだ。同法があれば、ドイツのように「毎月、国内で中国のスパイを摘発」(2020年6月、独連邦議会監視委員会)できるが、日本は野放しなのだ。
そもそも自衛権は国際法(国連憲章51条)で認められた独立国の固有の権利だ。国家機密や防衛機密を守るのは自衛権の現われだ。それで世界ではどの国も、刑法や国家機密法に「スパイ罪」を設けているのだ。
例えば、スウェーデン王国は世界で最初に情報公開法を設けた国だが、刑法典第19章「王国の安全に対する罪」に「スパイ罪」を設け、「(スパイ活動が)重大であると解すべき場合は、『重スパイ罪』として4年以上10年以下の有期拘禁又は終身拘禁に処する」(第6条)としている。米国は連邦法典794条、英国は国家機密法1条にスパイ罪を設け、最高刑で臨んでいる。 。